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東京高等裁判所 平成5年(行ケ)221号 判決 1996年10月16日

イギリス国

ロンドン エスダブリュ 1ピー 3ジェイエフ ミルバンク インペリアル ケミカル ハウス

原告

インペリアル ケミカル インダストリーズ リミティド

代表者

グラハム ドナルド アーノルド

訴訟代理人弁護士

宇井正一

同弁理士

吉田維夫

東京都千代田区霞が関三丁目4番3号

被告

特許庁長官 荒井寿光

指定代理人

近藤兼敏

花岡明子

伊藤三男

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決に対する上告のための附加期間を30日と定める。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成1年審判第11448号事件について、平成5年7月30日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文1、2項と同旨

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、1979年11月30日にイギリス国においてした出願に基づく優先権を主張して、昭和55年12月1日、名称を「改良された加工性を有する溶融加工可能な重合体組成物」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願をした(特願昭55-169447号)が、平成元年3月6日に拒絶査定を受けたので、同年7月3日、これに対する不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を平成1年審判第11448号事件として審理したうえ、平成5年7月30日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年8月25日、原告に送達された。

2  本願発明の要旨

異方性溶融体を形成し得る第2の重合体の少なくとも1種0.5~20重量%と他の溶融加工可能な第1の重合体の少なくとも1種とを含んでなり(該第1の重合体は上記第2の重合体と混合するまでは溶融加工可能でなくともよい)、且つ、上記第2の重合体が異方性溶融体を形成し得る温度範囲と上記第1の重合体を溶融加工することができる温度範囲とが少なくとも部分的に重複しており、両重合体を溶融加工するとき両者が単一溶融体を形成することを特徴とする重合体組成物。

3  審決の理由の要点

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明は、本願出願前に日本国内において頒布されたことが明らかな刊行物である米国特許第3804805号明細書(以下「引用例1」といい、その発明を「引用例発明1」という。)及び「Journal of Polymer Science:Polymer Chemistry Edition、第14巻、第2043頁~第2058頁、1976年」(以下「引用例2」という。)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。

第3  原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由中、本願発明の要旨及び各引用例の記載事項の認定(審決書2頁2行~6頁12行)は認める。

本願発明と引用例発明1との対比・判断については、一致点の認定、相違点2の判断及び本願発明の効果に関する判断をそれぞれ争い、その余は認める。

審決は、引用例1の記載事項の誤った解釈に基づき本願発明と引用例発明1の一致点の認定を誤り、また、相違点2の判断を誤り(取消事由1)、本願発明の効果の顕著性を看過し(取消事由2)、その結果、誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されるべきである。

1  取消事由1(引用例1の記載事項の誤った解釈に基づく一致点の認定及び相違点2の判断の誤り)

審決は、引用例1には、本願発明で規定した第2の重合体の量の範囲について記載されていないこと、すなわち、「本願発明では、第2の重合体の量を0.5~20重量%と規定しているのに対して、引用例1に記載された発明では、第2の重合体の具体的な量を明らかにしていない点」(審決書8頁11~14行)を相違点2として挙げながら、十分な技術的根拠を示すことなく、「溶融できる他の重合体の主要量に対して少量の共重合ポリエステルを添加して両重合体を含む組成物を形成することにより行うと考えるのが妥当であり」(同6頁20行~7頁3行)と認定するとともに、「この量は、他の重合体の種類、目的とする成形品の性質、溶融粘度の低減の程度その他に応じて、当業者が実験的に決定すべきものと考えられる。そして、第2の重合体の量として0.5~20重量%という量は、予期できないほどの特殊なものではない。従って、第2の重合体の量を0.5~20重量%とすることは、当業者が容易にできたものと認められる。」(審決書11頁5~13行)と判断しているが、誤りである。

本願発明は、溶融加工可能な第1の重合体(少なくとも1種)を、熱劣化を避けることができるようになるだけ低い温度で加工するために、その溶融粘度を下げる目的で、異方性の溶融体を形成できる第2の重合体(少なくとも1種)を第1の重合体に混合して組成物としたものである。

このように、第2の重合体の量を、下限は僅か0.5重量%、上限でも20重量%までの範囲に具体的に特定し、それより遙かに多量の第1の重合体(99.5~80重量%)の1/200~1/4という僅少な量であっても、これらよりなる組成物の溶融粘度を下げ、特に大きな剪断速度における組成物の溶融粘度を低くでき、剪断速度の変化に応じた優れた溶融挙動をし、その成形加工性を飛躍的に改良できるという顕著な効果を奏することは、本願発明者が独自の研究を重ねた結果漸く見出したものである。

本願出願当時の技術水準においては、複数の重合体を互いにブレンドしたものがいかなる流動挙動を示すか予見することは非常に困難であった。例えば、異方性溶融体を形成しうる少量の重合体は、必ずしも溶融状態で加工可能な他の重合体又はブレンドしたものの溶融粘度を低減させるとは限らず、反対に増加させることも多々あり(甲第2号証・本願明細書中の実施例8の表15、同11の表21参照)、この事実からしても、当業者は、異方性溶融体形成性の第2の重合体が溶融可能状態で加工可能な第1の重合体に対し、その溶融粘度を大きくするように働くと考えるのが通常であって、極めて多量の第1の重合体とブレンドしたものが、第1の重合体単独の場合の加工温度よりも低い温度及び大きな剪断速度において、溶融粘度が顕著に低くなり、優れた成形加工性と物理的・機械的性質の双方を備えたものとなること(同実施例3の表5、表6)は、予想だにしないことである。

引用例1においては、共重合ポリエステルのあるものが「驚異的に低い溶融粘度」を有すると述べているものの、その溶融粘度の具体的数値は挙げられておらず、本願発明の第2の重合体と比較することができない。

また、この共重合ポリエステルが他の重合体の溶融粘度を低減させるのに使用することができるといっても、他のいかなる重合体の溶融粘度をどの程度下げるかについて、また、共重合ポリエステルと他の重合体とから成る組成物の溶融粘度が共重合ポリエステル及び他の重合体の各溶融粘度よりも低くなることについて、引用例1には開示がない。

そのうえ、引用例1には、共重合ポリエステルと溶融加工可能な重合体との量比について全く示唆するところがないのであるから、それ以外の知見に言及することなく、共重合ポリエステルが少量で、他の溶融性重合体が主要量であるとした認定は誤りである。

引用例1においてポリエチレンテレフタレートと60モル%のp-アセトキシ安息香酸との最終共重合ポリエステル50重量%まで、またはそれ以上の量のものによって、ポリテトラメチレンテレフタレートの引張強度と曲げ弾性率が増大させられることが記載されているが、これは溶融粘度に関するものではなく、この量比から溶融粘度を低減する量の範囲を推測することはできない。また、この「50重量%まで、またはそれ以上」ということは、50重量%を中心としてその前後の相当範囲、例えば45~55重量%の範囲を含みうるとしても、本願発明におけるような「0.5~20重量%」の範囲にまで及ぶものではない。

審決は、上記のように、本願発明の第2の重合体の量は、「他の重合体の種類・・・その他に応じて、当業者が実験的に決定すべきものと考えられる。」としているが、このような判断が許されるのなら、数値限定発明に対する特許はすべて認められないこととなるのであって、到底容認できない。

以上のことは、米国マサチューセッツ大学ロジャー・エス・ポーター教授の宣誓供述書(甲第6号証)からも明らかである。同宣誓供述書には、本願明細書の表4等に記載されている粘度低下等が予期できなかったものであること、このような粘度低下は、本願出願後に刊行された「POLYMER」1985、Vol.26、August(Conference issue)所収の論文「Polyblends containing a liquid crystalline polymer」(「液晶ポリマーを含有するポリブレンド」、甲第8号証)において初めて記載されたものであること、また、引用例1に対応する英国特許明細書(甲第7号証)に言及し、審決の認定した引用例1の記載内容が技術的に矛盾していること、が指摘されている。

被告が挙げる各公開特許公報(乙第1~第5号証)は、本願発明のように第2の重合体として異方性の溶融体を形成しうる重合体(液晶重合体)を使用して、第1の重合体と配合して第1の重合体及び第2の重合体の各溶融粘度より低い溶融粘度を有する新たな溶融体組成物を得ること及びその際第2の重合体の重量比を0.5~20重量%という特定の範囲に限定することについては、いずれも何ら示唆するものではない。

2  取消事由2(効果の顕著性の看過)

審決は、「本願発明が予期し難い効果を奏したものとは認められない。」(審決書13頁15~16行)とするが、誤りである。

重合体の溶融粘度を小さくすると、それを加工する際に極めて有利になる。例えば、低い温度での加工が可能となり、加工に要するエネルギーが少なくて済む。重合体を型に入れて成形する場合には、成形温度が低くなるので、型内の圧力を高圧にしなくとも重合体を型の中に完全に充填することができ、成形サイクルが短くなって、エネルギーコストが低減するなどの利点がある。また、加工温度が低下するので、重合体が熱によって劣化する危険が大幅に減少する。

本願発明は、極めて少ない0.5~20重量%の第2の重合体とそれより遙かに多量の99.5~80重量%の第1の重合体を組み合わせることにより、第1の重合体の溶融粘度をその量比から考えられる程度を超えて飛躍的に変えることを可能にしたものである。

本願発明は、溶融粘度を低減するばかりでなく、剪断速度に応じて溶融粘度を変化することが可能である。重合体組成物の所望の溶融粘度は、重合体に対して加えられる剪断速度によって異なる。成形の際に高剪断速度(約100ないし1000sec-1)の剪断力を受けるときは重合体の溶融粘度は低く、型から出るような際は低剪断速度(約10sec-1)で剪断されるので形態保持のため高粘度が望まれる。本願発明の重合体は、このような剪断速度の変化に応じた溶融挙動を示すものである。

一般に、重合体組成物の加工性と物理的・機械的性質とは両立しにくい。加工性を改善すると、引張強度、衝撃強度、延性等の性質が低下し、反対に後者の性質を改善しようとすると、加工性が悪化する傾向にある。

本願発明は、少量の異方性溶融体形成性の第2の重合体によって、溶融状態で加工可能の多量の第1の重合体とのブレンドの溶融粘度を著しく低下せしめるとともに、第2の重合体が異方性溶融体を形成しうる低い温度範囲で第1の重合体を良好に加工しうるようにしたばかりでなく、その物理的・機械的性質も損なわないようにすることに成功したのである(本願明細書中の実施例3の表5、同12の表22参照)。

第4  被告の反論の要点

審決の認定・判断は正当であり、原告主張の取消事由はいずれも理由がない。

1  取消事由1について

ポリエチレンテレフタレートは、当該技術分野において、周知慣用の重合体であり、その溶融粘度は当業者が適宜測定することができるものである。そして、引用例1には、ポリエチレンテレフタレートと60モル%のp-アセトキシ安息香酸との最終共重合ポリエステルの溶融粘度がポリエチレンテレフタレート単独の約1/20であることが明記されているのであるから、最終共重合ポリエステルの溶融粘度は、この記載から自明である。

また、引用例1には、共重合ポリエステルのあるものは、例えば芳香族ジオールと芳香族ジカルボン酸とのポリエステルのような他の重合体の溶融粘度を低減させるために使用できることが明記されている。この記載によれば、共重合ポリエステルは他の重合体の溶融粘度低減剤として使用できることが分かるのであるから、共重合ポリエステルの使用量が少量で、他の重合体の量が主要量であるとして差支えない。

なお、審決で引用した引用例1の「例えば、ポリテトラメチレンテレフタレートの引張強度と曲げ弾性率は、50重量%まで、又はそれ以上の・・・最終共重合ポリエステルによって実質的に増大させられる」との記載も、ポリテトラメチレンテレフタレートを基準としていっていると解するのが自然であるから、ポリテトラメチレンテレフタレートが主要量であるということができる。また、共重合ポリエステルが50重量%という上記の記載を、ポリテトラメチレンテレフタレートと共重合ポリエステルを合計した量を基準にすると、共重合ポリエステルが約33重量%以上であって、直ちに共重合ポリエステルが主要量ということにはならない。

量比の具体的数値に関して、特開昭46-2945号公報(乙第1号証)、特開昭48-25053号公報(乙第2号証)、特開昭53-51247号公報(乙第3号証)、特開昭51-37146号公報(乙第4号証)、特開昭53-51244号公報(乙第5号証)には、そのいずれにも、芳香族ジオールと芳香族ジカルボン酸とのポリエステルはさまざまな好ましい性質を有する反面、溶融温度及び溶融粘度が高いため成形が困難であるという問題があること、及びこの問題解決のために、ABS等の溶融粘度の低減に効果のある種々の配合剤を、ポリエステルと配合剤の合計量に対して、0.5~20重量%の範囲の適当量、特に10重量%程度配合することが記載されている。

このことから、芳香族ジオールと芳香族ジカルボン酸とのポリエステルの成形性に関する技術問題、及びその解決手段として配合剤をポリエステルと配合剤の合計量に対して10重量%程度配合することは、当技術分野においてよく知られていたということができる。

したがって、審決が、「第2の重合体の量として0.5~20重量%という量は、予期できないほどの特殊なものではない。従って、第2の重合体の量を0.5~20重量%とすることは、当業者が容易にできたものと認められる。」(審決書11頁8~13行)と認定判断したことに、誤りはない。

2  取消事由2について

引用例1には、共重合ポリエステルのあるものは、例えば芳香族ジオールと芳香族ジカルボン酸とのポリエステルのような他の重合体の溶融粘度を低減させるために使用できることが明記されている。そして、このような記載がある以上、溶融粘度の低減の程度は、産業上の利益が得られる程度(例えば、成形が容易となる程度)のことと考えるべきで、本願発明の溶融粘度の低下は格別のものとはいえないし、重合体組成物の物理的・機械的性質を確認する程度のことは、格別の意義があることとはいえない。

また、本願明細書には、例えば表3に、本願発明に係る重合体組成物と第1の重合体の溶融粘度が対比して記載されていて、この記載によれば、本願発明に係る重合体組成物は、剪断速度が大きくなるに従って溶融粘度が低減するが、剪断速度が大きくなるに従って溶融粘度が低減するのは、本願発明に係る重合体組成物に特有の性質ではなく、第1の重合体も同様の性質を有していることが分かる。

したがって、本願発明の重合体組成物が剪断速度の変化に応じた溶融挙動を示すとしても、これが格別の効果であるとはいえない。

第5  証拠

本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立については、いずれも当事者間に争いがない。

第6  当裁判所の判断

1  取消事由1(引用例1の記載事項の誤った解釈に基づく一致点の認定及び相違点2の判断の誤り)について

(1)  引用例1には、第2の重合体が第1の重合体の溶融粘度を低減させることについて、審決摘示のとおり、「驚異的に低い溶融粘度のため、該発明の共重合ポリエステルのあるものは、例えば芳香族ジオールと芳香族ジカルボンとのポリエステルのような他の重合体の溶融粘度を低減させるためにも使用でき、275℃、剪断速度1000sec.-1において、ポリエチレンテレフタレートと60モル%のp-アセトキシ安息香酸との最終共重合ポリエステルの溶融粘度は、ポリエチレンテレフタレート単独の約1/20であること」(審決書3頁19行~4頁8行)が記載されているのみであり、第2の重合体に相当する共重合ポリエステルの量比について直接具体的に記載するものはない。

しかし、引用例1には、上記のように、第2の重合体に相当する共重合ポリエステルが他の重合体(第1の重合体に相当、以下「ベース重合体」ということがある。)の溶融粘度を低減させる目的で使用されることが明記されており、このようにベース重合体のある特性(この場合は、溶融粘度)を改良しようとして、別の成分を添加する場合、ベース重合体自体の持つその他の特性を維持しながら、改良の目的である特性を向上させようとすることは技術常識であると認められ、この場合、もし添加成分を多量に入れ、これが主要量となるとすると、むしろベース重合体本来の特性が維持できないと考えるのが普通であるから、そのような主要量となるような第2の重合体の添加を、引用例発明1が意図しているとは考え難い。

この点につき、特開昭48-25053号公報(乙第2号証)には、「テレフタル酸および(あるいは)イソフタル酸とビスフエノール類とよりなる重合体とABS樹脂の混合物からなるポリエステル樹脂組成物」(同号証1頁特許請求の範囲)の発明が記載されているところ、「その目的とするところは引張強度、曲げ強度を保持したままで耐衝撃強度を向上させるとともに成形性を著しく改善することにある」(同1頁左欄14~17行)とされ、添加するABS樹脂のブレンド比が10、30、50%の実施例1、2と同比が10、20%の実施例3が記載されている。

また、特開昭53-51247号公報(乙第3号証)には、「テレフタル酸とイソフタル酸とビスフェノール類とよりなる芳香族ポリエステル共重合体の成形性を改良した樹脂組成物に関する」(同号証1頁右欄11~13行)発明が記載されており、その構成は、「芳香族ポリエステル共重合体99.9~80重量%とポリエチレンテレフタレートの低重合体0.1~20重量%とからなる」(同1頁特許請求の範囲第1項)ものであるところ、「芳香族ポリエステル共重合体の機械的性質、ことに衝撃強度、引張強度、曲げ強度ならびに耐熱性を損うことなく、その成形性を向上すべく研究を進めた」(同号証2頁左上欄8~11行)ものとされる。

さらに、特開昭51-37146号公報(乙第4号証)には、「テレフタル酸とイソフタル酸またはこれらの機能誘導体の混合物・・・と・・・ビスフェノール類・・・とから得られる芳香族ポリエステル共重合体に、・・・芳香族エステル類・・・またはビスフェノールAのジベンゾイルエステルの群から選ばれた1種または2種以上を20%以下含有せしめた樹脂組成物」(同号証1頁特許請求の範囲)の発明が記載されており、「かかる芳香族エステル系可塑剤を20%以下含有せしめることにより、芳香族ポリエステル共重合体の透明性、着色性および機械的性質を維持しつつ、成形性および加工性が著しく改良されることを見出した」(同3頁左上欄11~15行)とされる。

以上の本願出願前公知の先行技術に照らせば、当業者は、引用例1には、ポリエチレンテレフタレートと60モル%のp-アセトキシ安息香酸との最終共重合ポリエステルの少量と、溶融できる他の重合体の主要量を含んでなる重合体組成物の発明が開示されていると当然に理解するものと認められる。

したがって、審決が、「本願発明と引用例1に記載された発明とを対比すると、両発明は、第2の重合体の少量と他の溶融加工可能な第1の重合体の主要量とを含んでなり、且つ、両重合体を溶融加工するとき両者が単一溶融体を形成する重合体組成物の発明である点で一致しており」と認定したことに誤りはないというべきである。

(2)  第1の重合体と第2の重合体との量比の具体的数値が引用例1に明記されていないことは、前記のとおりであるが、第2の重合体が第1の重合体の溶融粘度を低減させることが引用例1に示されている以上、ベース重合体である第1の重合体自体の持つその他の特性を維持しながら溶融粘度を低下させるために、その最小量を、有効な溶融粘度の低下が発現する必要最小限の量に設定しようと試みることは、一般的にいって何らかの困難性があるとは認められず、そのような数値の設定は、当業者が実験によって求められるものであるというべきである。

本願発明においては、本願明細書に「添加剤をわずか3%用いただけであつても加工温度を30℃低下させることができたし、また0.5%の微量添加があつても加工温度の実質的な低下が認められた。」(甲第2号証7欄3~6行)とあるように、加工温度の低減、即ち溶融粘度の低減の観点から添加量の最小量を設定していることが記載されているものであり、上記の通常当業者が実験的に、その適正範囲を求めるときの動機、観点と同じであるといえる。

一方、その添加が多すぎると、本来の重合体の特性を維持できなくなるのは明らかであるから、その上限もベース重合体の特性を損なわない範囲を当業者が実験的に容易に定めうるものというべきである。本願明細書をみても、添加剤の最大量を20%に設定するに当たっては、それ以外の格別の理由をもってしたことを示す根拠は見当たらない。

(3)  そこで、本願発明における第1の重合体と第2の重合体との量比の具体的数値の進歩性について、検討する。

特開昭46-2945号公報(乙第1号証)には、「2価フェノールとジカルボン酸から得られる大量部の線状芳香族超ポリエステルに、少量部のスチレンモノマーもしくはスチレンポリマーを混合して成る溶融安定性組成物」(同号証1頁特許請求の範囲)の発明につき、「ポリエステル組成物のスチレン含量は全組成物の1乃至10重量%に保持することが好ましい」(同1頁右欄13~15行)とされており、また、添加剤の混合比は、前掲特開昭48-25053号公報(乙第2号証)記載の発明において10、20、30、50%、同特開昭53-51247号公報(乙第3号証)記載の発明において0.1~20重量%、特開昭51-37146号公報(乙第4号証)記載の発明において20%以下である。

さらに、特開昭53-51244号公報(乙第5号証)記載の発明は、「テレフタル酸とイソフタル酸またはこれらの機能誘導体の混合物・・・と・・・ビスフェノール類・・・とから得られる芳香族ポリエステル共重合体とアイオノマーとからなる樹脂組成物」(同号証1頁特許請求の範囲)であるところ、芳香族ポリエステル共重合体である「ポリアリレート共重合とアイオノマーの混合割合は99.9:0.1ないし50:50(重量比)、とくに99.5:0.5ないし90:10(重量比)の範囲であることが好適である」(同号証3頁左下欄末行~右下欄3行)とされている。

これらの各公報記載の発明は、いずれも、重合体の溶融粘度を低減し、成形性を向上させる目的で他の重合体又は可塑剤を添加するものであり、添加量は、上記乙第3、第5号証記載の発明では、0.1重量%という本願発明の最小量よりさらに少ない量でも有効であることを示している。そして、最大量は、上記第2の発明のように50%というものもあるが、同第1のものでは10%、同第3、第4のものでは20%、同第5のものでは、最大量は50%、好適には10%とされていることが認められる。

これらのことからすると、芳香族ジオールと芳香族ジカルボン酸とのポリエステルの成形性に関する技術的課題及びその解決手段として配合剤をポリエステルと配合剤の合計量に対して0.5~20%程度とすることは、当該技術分野において特殊の事例ということではなく、むしろ通常のことであると認められ、上記知見が、本願発明のように第2の重合体として異方性溶融体を形成しうる重合体(液晶重合体)に適用できないとする根拠も見当たらない。

(4)  以上によれば、審決が、第2の重合体の量につき、「この量は、他の重合体の種類、目的とする成形品の性質、溶融粘度の低減の程度その他に応じて、当業者が実験的に決定すべきものと考えられる。そして、第2の重合体の量として0.5~20重量%という量は、予期できないほどの特殊なものではない。従って、第2の重合体の量を0.5~20重量%とすることは、当業者が容易にできたものと認められる。」(審決書11頁5~13行)と判断したことに誤りはない。

取消事由1は理由がない。

2  取消事由2(効果の顕著性の看過)について

引用例1に溶融粘度を低下させる目的で第2の重合体を添加することが記載されている以上、本願発明において溶融粘度の低下の効果が奏されることは、引用例1から予測される効果であり、溶融粘度が低下した結果、原告主張のような低い温度での加工が可能となること等、加工に際する種々の利点が生じることは自明のことというべきである。

また、剪断速度に応じた溶融粘度の変化は、ベース重合体自体も有するものであることは、本願明細書(甲第2号証)の表3の「ベース重合体(100%)」の欄の記載から明らかであり、これと同表の「ベース重合体(90%)+液晶重合体(10%)」の欄の記載とを対比すれば、同表は、第2の重合体を添加しても、ベース重合体の特性が保持されていることが示されているにすぎないと認められる。このことからすると、高剪断速度での溶融粘度の低下は、本願発明の組成物が持つ格別の効果ということはできない。

引用例1には、審決で摘示するように、「共重合ポリエステルは、他のプラスチックの強度と剛性を向上させるための強化剤としても使用でき、例えば、ポリテトラメチレンテレフタレートの引張強度と曲げ弾性率は、・・・最終共重合ポリエステルによって実質的に増大させられること」と、第2の重合体を添加することにより強度を向上させうることが記載されている。この記載をみれば、本願発明においても、機械的特性を損なわないで溶融粘度を低下させることができるであろうことは、当業者が予測できることということができ、低い溶融粘度で実用的強度を有する成型品を得ることができるという効果をもって、格別のものと認めることはできない。本願明細書の実施例3(表5、6)の結果は、その効果を確認したものにすぎない。

取消事由2も理由がない。

3  以上のとおり、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく、その他審決にこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。

よって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担及び上告のための附加期間の付与について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条、158条2項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 芝田俊文 裁判官 清水節)

平成1年審判第11448号

審決

イギリス国、ロンドン エスダブリュ 1ピー 3ジェイエフ、ミルバンク、インペリアル ケミカル ハウス(番地なし)

請求人 インペリアル ケミカル インダストリーズ リミティド

東京都港区虎ノ門一丁目8番10号 静光虎ノ門ビル

代理人弁理士 青木朗

東京都港区虎ノ門一丁目8-10 静光虎ノ門ビル 青木内外特許事務所

代理人弁理士 西舘和之

東京都港区芝2丁目5番10号 サニーポート芝1005 内田特許事務所

代理人弁理士 内田幸男

東京都港区虎ノ門一丁目8-10 静光虎ノ門ビル 青木内外特許事務所

代理人弁理士 山口昭之

昭和55年特許願第169447号「改良された加工性を有する溶融加工可能な重合体組成物」拒絶査定に対する審判事件(平成3年7月10日出願公告、特公平3-45107)について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

理由

〔本願発明の要旨〕

本願は、昭和55年12月1日の出願(優先権主張1979年11月30日 イギリス)であって、その発明の要旨は、出願公告の後、平成4年10月27日付の手続補正書によって補正された明細書の記載から見て、その特許請求の範囲第1項に記載されたとおりの下記にあるものと認める。

「異方性溶融体を形成し得る第2の重合体の少くとも1種0.5~20重量%と他の溶融加工可能な第1の重合体の少くとも1種とを含んでなり

(該第1の重合体は上記第2の重合体と混合するまでは溶融加工可能でなくともよい)、且つ、上記第2の重合体が異方性溶融体を形成し得る温度範囲と上記第1の重合体を溶融加工することができる温度範囲とが少くとも部分的に重複しており、両重合体を溶融加工するとき両者が単一溶融体を形成することを特徴とする重合体組成物。」

〔引用例の記載〕

これに対して、特許異議申立人・株式会社クラレが甲第1号証として引用した、本出願前に日本国内において頒布されたことが明らかな刊行物である米国特許第3804805号明細書(以下、引用例1という。)には、ポリエチレンテレフタレートとアシロキシ安息香酸から得られる共重合ポリエステル(発明の名称)について記載されており、該発明の共重合ポリエステルは、核剤、充填剤、顔料、ガラス繊維、アスベスト繊維、抗酸化剤、安定剤、可塑剤、滑剤、難燃剤、及び他の難燃剤を含んでもよく(第9欄第70行~同欄第73行)、該発明の共重合ポリエステルは、他のプラスチックの強度と剛性を向上させるための強化剤としても使用でき、例えば、ポリテトラメチレンテレフタレートの引張強度と曲げ弾性率は、50重量%まで、又はそれ以上の、ポリエチレンテレフタレートと60モル%のp-アセトキシ安息香酸との最終共重合ポリエステルによって実質的に増大させられること(第9欄第73行~第10欄第4行)が記載され、驚異的に低い溶融粘度のため、該発明の共重合ポリエステルのあるものは、例えば芳香族ジオールと芳香族ジカルボンとのポリエステルのような他の重合体の溶融粘度を低減させるためにも使用でき、275℃、剪断速度1000sec.-1において、ポリエチレンテレフタレートと60モル%のp-アセトキシ安息香酸との最終共重合ポリエステルの溶融粘度は、ポリエチレンテレフタレート単独の約1/20であること(第10欄第5行~第10欄第13行)が記載されている。

又、前記特許異議申立人が甲第4号証として引用した、本出願前に外国において頒布されたことが明らかな刊行物であるJournal of Polymer Science:Polymer Chemistry Edition、第14巻、第2043頁~第2058頁、1976年(以下、引用例2という。)には、液晶重合体、即ちp-ヒドロキシ安息香酸共重合体の製造及び性質(表題)について記載されており、ポリエチレンテレフタレートをp-アセトキシ安息香酸でアシドリシスし、アセテート基とカルボキシル基との間で重縮合反応させることにより、高分子量の共重合ポリエステルを調製したこと、並びに40~90モル%のp-ヒドロキシ安息香酸(PHB)を含む、射出成形した共重合ポリエステルの機械的性質は、高度に異方性であり、PHB含有量、ポリエステルの分子量、射出成形の温度及び試験片の厚みに依存したこと(第2043頁、Synopsisの第1行~第5行)が記載され、PHB共重合ポリエステルが射出成形される温度は、「液晶」重合体鎖の配向に影響を及ぼし、その結果、機械的性質に影響を与えること、及び表Ⅲは60モル%のPHBによって変性されたPETの性質に対するシリンダー温度の影響を示すこと(第2051頁本文第8行~第11行)が記載され、60モル%のPHBによって変性されたPETの性質に対する温度の影響が、シリンダー温度210℃、240℃、250℃、260℃及び280℃における成形後の固有粘度、引張強度、伸び、曲げモジュラス、アイゾッド衝撃強度(ノッチ付及び非ノッチ付)、ロックウエル硬度及び熱変形温度のデータ(表Ⅲ)によって示され、温度が上昇するにつれて、溶融粘度が減少し、型内に射出される重合体溶融物の速度は増大し、その結果、重合体鎖の配向が増大すること、引張強度、伸び、剛性及び衝撃強度は、シリンダー温度が210℃から260℃に上昇するにつれて増大すること、並びに重合体が280℃で成形されるときに得られる幾分低いレベルの性質は、重合体が固化する前の溶融物中での重合体鎖の緩和による配向のいくらかの喪失によるものと思われること(第2051頁本文第11行~第2052頁本文第2行)が記載されている。

〔対比・判断〕

引用例1には前記のとおり、驚異的に低い溶融粘度のため、ポリエチレンテレフタレートとアシロキシ安息香酸から得られる共重合ポリエステルのあるものは、他の重合体の溶融粘度を低減させるために使用できることが記載されている。

そして、共重合ポリエステルを使用して他の重合体の溶融粘度を低減させる場合には、溶融できる他の重合体の主要量に対して少量の共重合ポリエステルを添加して両重合体を含む組成物を形成することにより行うと考えるのが妥当であり、この組成物、即ち両重合体を溶融加工するとき両者が単一溶融体を形成すると考えるのが自然である。

又、溶融粘度の低い共重合ポリエステルの具体例として、ポリエチレンテレフタレートと60モル%のp-アセトキシ安息香酸との共重合ポリエステルが記載されている。

従って、引用例1には、ポリエチレンテレフタレートと60モル%のp-アセトキシ安息香酸との共重合ポリエステルの少量と、溶融できる他の重合体の主要量とを含んでなり、且つ、両重合体を溶融加工するとき両者が単一溶融体を形成する重合体組成物の発明が記載されている、ということができる。

本願発明と引用例1に記載された発明とを対比すると、両発明は、第2の重合体の少量と他の溶融加工可能な第1の重合体の主要量とを含んでなり、且つ、両重合体を溶融加工するとき両者が単一溶融体を形成する重合体組成物の発明である点で一致しており、

1. 本願発明では、第2の重合体が異方性溶融体を形成し得ることを規定しているのに対して、引用例1に記載された発明では、第2の重合体としてポリエチレンテレフタレートと60モル%のp-アセトキシ安息香酸との共重合ポリエステルを用いているだけで、この共重合ポリエステルが異方性溶融体を形成し得ることを明らかにしていない点、

2. 本願発明では、第2の重合体の量を0.5~20重量%と規定しているのに対して、引用例1に記載された発明では、第2の重合体の具体的な量を明らかにしていない点、

3. 本願発明では、第2の重合体が異方性溶融体を形成し得る温度範囲と第1の重合体を溶融加工することができる温度範囲とが少なくとも部分的に重複していることを規定しているのに対して、引用例1に記載された発明では、このようなことを明らかにしていない点、で両発明は、一応相違する。

そこで、これらの相違点について検討する。

相違点1について:

引用例2には、前記のとおり、60モル%のPHB(p-ヒドロキシ安息香酸)によって変性されたPET(ポリエチレンテレフタレート)は、温度が上昇するにつれて、溶融粘度が減少し、型内に射出される重合体溶融物の速度は増大し、その結果、重合体鎖の配向が増大すること、引張強度、伸び、剛性及び衝撃強度は、シリンダー温度が210℃から260℃に上昇するにつれて増大すること、並びに重合体が280℃で成形されるときに得られる幾分低いレベルの性質は、重合体が固化する前の溶融物中での重合体鎖の緩和による配向のいくらかの喪失によるものと思われることが記載されているので、引用例2に記載された60モル%のPHB(p-ヒドロキシ安息香酸)によって変性されたPET(ポリエチレンテレフタレート)は、210℃から280℃において異方性溶融体を形成し得るものと認められる。

又、引用例2には、前記のとおり、60モル%のp-ヒドロキシ安息香酸によって変性されたポリエチレンテレフタレートは、ポリエチレンテレフタレートをp-アセトキシ安息香酸でアシドリシスし、アセテート基とカルボキシル基との間で重縮合反応させることにより調製したものであるとのことであり、これは、引用例1におけるポリエチレンテレフタレートと60モル%のp-アセトキシ安息香酸との共重合ポリエステルといっても差し支えないものであるから、引用例1に記載された、ポリエチレンテレフタレートと60モル%のp-アセトキシ安息香酸との共重合ポリエステルは、引用例2のものと同様の性質を有し、210℃から280℃において異方性溶融体を形成し得るものと認められる。

従って、本願発明で、第2の重合体が異方性溶融体を形成し得ることを規定したことにより、引用例1に記載された発明と実質的に異なる発明が構成されたものと認めることはできない。

相違点2について:

引用例1には、ポリエチレンテレフタレートと60モル%のp-アセトキシ安息香酸との共重合ポリエステルを使用して、他の重合体の溶融粘度を低減させる際の該共重合ポリエステルの具体的な量については記載されていないが、この量は、他の重合体の種類、目的とする成形品の性質、溶融粘度の低減の程度その他に応じて、当業者が実験的に決定すべきものと考えられる。そして、第2の重合体の量として0.5~20重量%という量は、予期できないほどの特殊なものではない。

従って、第2の重合体の量を0.5~20重量%とすることは、当業者が容易にできたものと認められる。

相違点3について:

ポリエチレンテレフタレートと60モル%のp-アセトキシ安息香酸との共重合ポリエステルが210℃から280℃において異方性溶融体を形成し得ることは、前記のとおりである。又、特開昭54-124044号公報、特開昭54-138056号公報、特開昭54-142260号公報、特開昭54-145754号公報及び特開昭54-150457号公報の各実施例にも記載されているように、ポリブチレンテレフタレート、即ちポリテトラメチレンテレフタレートが240~250℃で溶融加工ができることは本出願前よく知られている。従って、ポリエチレンテレフタレートと60モル%のp-アセトキシ安息香酸との共重合ポリエステルが異方性溶融体を形成し得る温度範囲とポリテトラメチレンテレフタレートを溶融加工することができる温度範囲とが少なくとも部分的に重複することは明らかである。

ところで、引用例1には前記のとおり、驚異的に低い溶融粘度のため、該発明の共重合ポリエステルのあるもの、例えばポリエチレンテレフタレートと60モル%のp-アセトキシ安息香酸との共重合ポリエステルが他の重合体の溶融粘度を低減させるために使用できる旨の記載の直前に、ポリテトラメチレンテレフタレートの性質改良のためにポリエチレンテレフタレートと60モル%のp-アセトキシ安息香酸との共重合ポリエステルが使用できることが記載されているので、これらの記載を総合すれば、第1の重合体としてポリテトラメチレンテレフタレートを用い、第2の重合体としてポリエチレンテレフタレートと60モル%のp-アセトキシ安息香酸との共重合ポリエステルを用いることは当業者が容易に想到しうることであり、その場合に、溶融粘度を低減させることができることは当業者が容易に予測できることである。

してみれば、第2の重合体が異方性溶融体を形成し得る温度範囲と第1の重合体を溶融加工することができる温度範囲とが少なくとも部分的に重複していることを規定することに格別の困難性があったものと認めることはできない。

又、本願発明が予期し難い効果を奏したものとは認められない。

従って、本願発明は、前記引用例1及び2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。よって、結論のとおり審決する。

平成5年7月30日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

請求人 被請求人 のため出訴期間として90日を附加する。

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